
オーディオのアンプのパワーは、どの程度必要かという話題で、
アンプの違いというのは、色づけ(アンプの音色)とパワー(出力)の違いだけだという人がいた。
しかし、それはあまりにも大雑把なとらえ方だと思う。
アンプのスペックには、ダンピングファクターという数値が書いてあったりなかったりするが、これを無視することはできない。
電気回路の基礎知識があれば、容易に理解できることだと思うが、一応、簡単に説明してみたいと思う。

左の図は、電源に抵抗が2つ直列に接続されている回路である。
こういう場合、電圧Vは抵抗R1、R2に分かれる。つまり
V=V1+V2となる。
そして、その電圧の分かれ方は、R1とR2の抵抗の比になる。
具体例を挙げれば、V=10v、R1、R2がそれぞれ5Ωであれば、V1、V2もそれぞれ5vずつになる。すなわち、R1とR2が同値ならば、
R1:R2=1:1であるから、どちらの抵抗にも同じ電圧がかかることになる。
R1=2Ω、R2=8Ωの場合はR1には2v、R2には8vになる。
この図を次のように書き換えても同じである。

点線の枠内は、それぞれアンプ側、スピーカー側を表す。
この時、ダンピングファクター
DFは次の式で表される。
DF=R2/R1この式は、スピーカーのインピーダンスに比べて、アンプのインピーダンスが小さいほど、ダンピングファクター
DFが大きいことを表している。
そして、
ダンピングファクターが大きいということは、スピーカー側により大きな電圧が配分されるということを示している。具体的には、スピーカーのインピーダンスが
8Ω、アンプのインピーダンスが
0.4Ωとすれば、
DF=8/0.4=20ということになる。
R1:R2=1:20であり、アンプから発生した電圧も1:20の割合でかかることになる。
これは非常に大きな割合でスピーカーに電圧が分配されることを表している。
もし、
R1=0Ωならば、すべての電圧がスピーカーに分配されることになるが、これは理想である。
しかし、スピーカーのインピーダンスに比べ、アンプのインピーダンスが小さいほど、スピーカーには発生する電圧が限りなく100%分配されることになる。
ところで、
スピーカーのインピーダンスは8Ωと記載されているものが多いが、これは低音から高音まで(20Hz〜20KHzまで)8Ω一定ではない。下の図は、あるフルレンジスピーカーの周波数特性と、インピーダンス特性を表したものである。

このように、スピーカーのインピーダンスは周波数によって変化しているので、アンプは非常に複雑に変化するスピーカーをドライブするのが実態で、8Ωに対処するだけでは、アンプのドライブ能力としては不十分である。
結論として、スピーカーのインピーダンスがどのように変化しても、スピーカーに送り込む電圧が変動しないアンプが理想のアンプである。
出力100Wと記されていても、パワーを感じないのは、めまぐるしく変化するスピーカーのインピーダンスの変化に追従できないからである。
アンプのスペックに記されているパワーは、あくまでも、8Ωとか4Ωとか一定の条件のもとでの値なのである。
それも、非常に速い速度で変化するインピーダンスに対しては、スペックの値のようにはいかない場合がある。
理想のアンプでは、スピーカーのインピーダンスの変動に対して、安定してスピーカーに電圧を配分することができる。
その場合、スピーカーにかかる電圧をV(v)とすると、アンプから出力されるパワーPと、スピーカーのインピーダンスの関係は、次のようなグラフ(赤線)で表される。
つまり、アンプのパワーPとスピーカーのインピーダンスは反比例の関係にある。Vは一定であるのでVの二乗も一定(定数)となる。
しかし、理想通りVが一定にならないと、すなわち低下してしまうと、緑の線のようにパワーは低下してしまう。
パワーは大きいのに低音が出ないという理由に、Vが低下してしまう、つまりアンプがインピーダンスの変化に追従できないという原因がある。
だから、アンプの違いはパワーの違いだけではないのである。
ダンピングファクターの小さいアンプは、ドライブ能力が低いと言える。
真空管アンプの出力インピーダンスが0.5Ω程度なので、スピーカーのインピーダンスが8Ωの場合、
8/0.5=16がダンピングファクターになります。トランジスタ(半導体)は一般に出力インピーダンスが0.01Ω以下で
8/0.01=800でダンピングファクターが大きいです。
アンプの違いは、他の要素もありますが、今回はそのうちの一つ、ダンピングファクターについて説明しました。
アンプの違いが、音色とパワーの大きさと考えていると、大きな間違いを起こすとだけ確認しておきたいと思います。