
私のパワーアンプ(メインアンプ)にはワットメーターがついている。
それを見ていると、かなり大きな音だと思っても1Wを超えることはめったにない。
すると、アンプのパワーはそんなに必要ないように思える。
1Wそこそこで十分なら、余裕をみてもせいぜい数ワットもあればよいように思う。
実際、そういうことを書いた記事は多い。
ここで、W数だけ云々しても話にならないということは、少し知識のある人ならわかる。
それは、W数というのは音の大きさではないからである。
実際の音を出すのはスピーカーであり、どのくらいの大きさが出るかはスピーカーの能率にかかっている。
具体的には、スピーカーの規格をみると、90dB/Wなどと書かれている。
これは、スピーカーに1Wの入力信号を入れると、1m離れたところで90dBの音量が出るという意味である。
(1Wの入力ではなく、2.83Vの入力と書かれているカタログもある)
90dBというのは、代表的なスピーカーの規格であるが、これは現実にどのくらいの音量なのだろう。
かなり大雑把ではあるが、ガード下で電車の通過音を聞くぐらいだと思えば、およその検討がつく。
私の使っているスピーカーは92.5dBなので、ワットメーターが1Wを示しているというのはかなり大きな音だということがわかる。
人が耳が痛いと感じる音量は120dBと言われている。
ということは、120dBを超える音量を再生することは考えなくてよいということになる。
音の大きいロックコンサートでは115dBという資料もある。
では、本題のアンプのパワーはどのくらい必要かという話になるわけだが、これはスピーカーの能率に関係があるとわかる。
ここで再生したい最大音量の目標値を110dBとしてみよう。
わかりやすいのは、スピーカーの能率が110dBなら、アンプは1Wでよいということになる。
だが、今日、そんなに能率のよいスピーカーは珍しい。
(スピーカーのボックスを、ホーン型にすると能率はよくなるが)
私が紹介する、わかりやすいと思う計算方法は、
スピーカーの能率が3dB低くなると、同じ音量を出すのにアンプのパワーは2倍必要になるというのを基準にするという方法である。
前提→110dBを最大音量の目標値とする。(1)スピーカーの能率→101dB
110-101=9
9÷3=3
2の3乗=8
アンプの必要パワー=8W
(2)スピーカーの能率→92dB
110-92=18
18÷3=6
2の6乗=64
アンプの必要パワー=64W
(3)スピーカーの能率→89dB
110-89=21
21÷3=7
2の7乗=128W
アンプの必要パワー=128W
(4)スピーカーの能率→86dB
110-86=24
24÷3=8
2の8乗=256
アンプの必要パワー=256W
いくつか計算例を挙げたが、
86dBのスピーカーでは、実に256Wのアンプが必要になるということがわかる。
でも、いつも最大音量で聞くわけではないので、そんなに必要ないだろうという考えも出てくる。
ここで、
アンプの出力と歪率の関係を考えてみよう。
アンプは出力の限界付近で急激に歪が増す。
歪が増すと音が汚くなるだけでなく、歪み成分の中には多くの過大な高調波が含まれていて、これがスピーカーを破壊する原因になることがある。
つまり、
出力に余裕のないアンプはスピーカーを壊しやすいということを知っておくべきである。
図でわかるように、出力の小さいアンプほど、急激に歪が増大する値に近づきやすい。
ところが、解説によっては、
反対のことが書いてあるものがある。
出力の大きいアンプはスピーカーを壊しやすいと書いてあるのであるがこれは要注意である。また、
せいぜい1Wぐらいまでしか出さないなら、100Wも出るアンプで聞くより、8Wのアンプで聞く方が音はずっときれいであると説明しているものもあるが、これも全く反対である。やはり要注意。
このような説明をしている人には、どうも真空管アンプをすすめたい人に多いような気もする。深読みすれば、真空管アンプがパワーを出せないからかと思ってしまう。
昔はそういうアンプがあったかも知れない。しかし、現在のオーディオ用アンプは大きなパワーの出せるアンプが小出力でも音がきれいである。
現代は86dBという能率のスピーカーも少なくない。
先の計算例のように、このようなスピーカーでは256W必要なのだ。