
これには、思い出がある。
かの有名なYAMAHAのベストセラーNS-1000Mの思い出だ。
私はそれまでは自作が多く、もっぱら自作で聴くというのが私の主義のようになっていた。
しかし、忙しくなってきて、自作の時間もなかなかとれないようになってきたので、既成品のスピーカーを買おうと思った。
行きつけのオーディオ店に言って、数あるスピーカーの主だったものを試聴して決めようと思っていた。
いくつか試聴していくと、これまでに見たことのない真っ黒なスピーカーがあって、何だこれはと思った。
普通、スピーカーはネットグリルがついているが、はじめからそれもなくて、真っ黒で何も飾ったところがない。
YAMAHAというステッカーが貼ってあるだけである。デビューしたばかりのNS-1000Mだった。
切り替えてもらって聴いたところ、衝撃を受けた。
このスピーカーだけが、音が前に出てくるのである。
私は自分でも演奏をするので、その時持ち合わせたカセットに録音したものを聴いた。
自分の演奏だし、何の加工もしていないので、スピーカーの特徴がよくわかった。
■オーディオ製品を選ぶ時
音源のよくわかっているもので試聴してみるのが一番。
できれば、自分の演奏。
あるいは、自分で録音したもの。
それらもない場合は、自分が何度も聴いて音がよくわかっているCD。
オーディオ店にある視聴用のソースでは、ある程度はわかってもよくはわからない。
オーディオ製品は何らかのお化粧がしてある。
役者がお化粧して舞台に立つように、きれいに見せかける何かがある。
自作をやっていて、オーディオの基本(のようなもの)を学ぶと、王道としては、余計な共鳴を排除することが正しいと認識する。
しかし、それを徹底していくと、写真で言えば素顔を見るようなものなので、人によってはがっかりするかもしれない。
だが、モニターということであれば、自分の演奏を正直に再現してくれるものがいい。
それが、自分のよく知っている音源、特に市販の音源でないものはよくわかる。
最近ではTAOCのスピーカーを見かけるが、TAOCは制振技術に長けているせいか、そのノウハウを駆使したスピーカーを作った。
自分の演奏を聴いてみると、アラもそのまま出てくるので恥ずかしい。
他の多くは、そうか立派に聴かせてくれるんだと思うものが多い。
正直なものが、モニターとしては特によいと思うが、一般には受けないようである。
それでも、何でもかんでも同じような音になってしまう装置は、私の好みとしては敬遠したい。



