ここで変化させる変数は
「ケーブルの太さ」です。
「抵抗」ではありません。
今まで話題に出てきた
・許容電流
・時定数
・抵抗
・コイル成分による電流の遅延
・表皮効果
・その他
これらはケーブルの材質等を固定した場合は、すべて太さの従属関数といえます。
問題にしているのは「ケーブルの太さを変えることによって、電気回路上の何が変わるのか」ということです。
電気回路の変数は、電圧(E)、電流(I)、抵抗(R)の3つだけです。
単に「ケーブルの太さを変えたら、何が変わるのか」と問えば、変わるものは他にもあります。
例えば「重さ」だって変わります。
しかし、ここでのテーマは、ある人が「ケーブルは細くした方が、電流の流れは速くなる」と言ったので、私はそれは誤りであると言ったのです。
だから、ここでの問題点はケーブルの太さを変えると、電流はどう変化するのかということだけです。
ケーブルの太さが大きくなるということは、断面積が大きくなるということです。
断面積が大きくなるということは、直流抵抗が小さくなるということです。
だから、
(E/R)=I
の式において、R→小、I→大、ということです。
単純にこれだけのことです。
これを勘違いしているのは、水道のホースをイメージして「ホースを細くすると水の流れが速くなる」を持ち出していることです。
確かに、ホースを細くすると水は遠くまで飛ぶことから水流が速くなることは確認できますが、これは「流量」が増えたわけではないのです。
このことがわからなければ、バケツを用意して太いホースと細いホースではどちらが早くバケツが満杯になるか比較してみればよいと思います。
電流を流すというのは、バケツリレーをやっているようなものですから、ホースが太いのと細いのではどちらが有利かを考えてみればわかると思います。
電気信号が交流になると、インピーダンスの概念が必要です。
そうすると、直流抵抗の他に、誘導リアクタンス(XL)、容量リアクタンス(XC)も考えねばなりませんが、ケーブルの断面積が大きくなることで、XLやXCが変わることはありません。
従ってXLによる信号の遅延はありません。
自分の感想ですが、よんまる様が根拠としているのはhttp://www.ne.jp/asahi/shiga/home/MyRoom/9416transient_impedance.pdf の(I−6)にあると読めました。なるほど、τは確かにRが大きいほうが小さくなりますが、しかし、考慮すべきは電流の量ではないのでしょうか。
(I−4)式が電流量を表していると思いますので、話を単純化するために L=2 と固定し、R=2 と R=10 で比較してみたいと思います。
R=2 のとき、I= Vゼロ/2 + 1/(Aeのt乗)
R=10 のとき、I= Vゼロ/10 + 1/(Aeの5t乗)
となりますから、電流Iは明らかにRが小さい方が大きくなり、立ち上がりも速いと思われます。
おっしゃるとおりです。
図示しないとわかりにくのですが、交流のインピーダンスで考えると、
誘導リアクタンスは位相が90度遅れます。
容量リアクタンスは位相が90度進みます。
直流抵抗は、位相差ゼロです。
だから、容量リアクタンスや直流抵抗が増えると、位相は進む方向になります。
容量リアクタンスはそのままとして、直流抵抗が増えると、位相はゼロに
近づく方向になります。
それは、波形が変わって、あたかも立ち上がりが良いように見えますが、
おっしゃるとおり、電流自体が小さくなってしまいます。
>ケーブルは細くした方が、電流の流れは速くなる
これは間違いです。というより意味不明ともいえます。
元のエントリーでは
「ケーブルは細くした方が、音の立ち上がりが良くなる」でした。
それに対し、dolceさんがあり得ないと書かれていました。
>例えば「重さ」だって変わります。
その他機械的特性が変わります。もっともその変化が音の立ち上がりに影響するのか、
私にはわかりません。機械的特性について検討しないのであれば、そう明記したほうが
適当と思います。
ダンピングファクターはわかります。
ですが、電流が大きいとなぜ立ち上がりが良くなるのか。どこにも示されていません。
ボリュームだけの問題ではないのですか。教えてください。
元のエントリーでは、
「電力が落ちる分はボリュームを上げればよい」
との考えに対して、ダンピングファクターの低下をあげて批判されていました。
ですから、電流ないし電力は同じくらいになるように調整した場合も、ケーブル
を細くして音の立ち上がりが悪くなるのかという検討が必要です。
あなたの信じる道を行ってください。
ケーブルは細い方がいいと思えば、そうしてください。
オーディオは、個人の好みでいいと思います。
しかし返ってきたのは供給される電力が大きければスピーカーが大きく早く動くという当たり前のことだけでした。このことを以って「立ち上がりがよい」と称するのは日本語として間違ってはいませんが、仮に、電力に比例してスピーカーが動くということあれば電力が大きいときは大きな音が出るというだけで音質は同じですから、オーディオの比較としては意味がありません。音量を変えることを許容して話をしてきたのは議論をわかりにくくするだけで、失敗だったようです。
以下、音量を同一として比較するという前提でまとめなおします。なお、許容電流については一応議論が尽くしたと思いますので省略します。必要な許容電流についてはdolceさんは非常に大きなものを想定されているようなので根拠となるデータなり資料を提示いただきたいと思います。
音量を同一にするという条件は比較試聴の原則ですが、実際にオーディオ機器の一部を変更して音量が変わった場合には、聞きたい音量にあわせますから、オーディオ機器の実使用にも即した比較条件といえます。したがって、音量をそろえるという条件をはずした条件で議論して結論を出すということはあり得ません。
音量は、スピーカーに入力される実効電力で決まります。同じスピーカーに同じ波形で同じ実効電力をかければ同じ音量になります。
音量をそろえるにあたってはアンプに基準の信号を入力して○dBという風に決めればよいでしょう。
ケーブルを細くすると変わるもの
1.直流抵抗による損失
ケーブルが細くなると抵抗が増加し、スピーカーに供給される電力が減少することはいままで議論してきたとおりです。ただし、音量は一定ですので、スピーカーに入ってくる電力は一定であり、アンプの出力とケーブルにおける電力の損失が増加することとなります。
ここで問題になるのは、「損失」で音質が変化するのかという問題です。
このことを理論的に論じたものがあるのかどうか知りませんが、少なくともこのブログでは論じられていません。
直感的には何がしかの影響があるような気もしますが、理論的根拠はありません。仮に音が変わるとして、その変化がアンプのボリュームを絞ることによる音の変化と同じものであるとすれば、結果的に「音は変わらない」ことになります。
「このような場合は音の立ち上がりが同じであるが、同じ出力でケーブルの抵抗が減った場合は音の立ち上りが良くなる」という主張は「ボリュームを上げると音の立ち上がりが良くなる」という主張と同一ですので、オーディオにおける音質比較として、意味を成しません。
2.ダンピングファクター
ケーブルが細くなると抵抗が増加し、そのことによりダンピングファクターが小さくなります。このブログでも説明されています。
ただし、ケーブルが細くなることによるダンピングファクターの減少は数字で計算することができますが、ダンピングファクターはスピーカーの動きを定量的に表しているわけではないので、定量的にどのくらい影響するのかを直接評価することはできません。
3.2線間の静電容量によるローパスフィルター効果
行き帰りの2線は静電容量を持つため、2線間がコンデンサーでつながっているのと同じ状態になります。このブログにも説明があるとおりです。これはローパスフィルターと同様の回路です。
抵抗が大きい場合はコンデンサーの充電がゆっくりになりこの効果が大きくなりますので、この効果については抵抗が大きいと立ち上がりが悪くなります。
ただし、ケーブルが太くなると2線間の静電容量が増えます(線間距離一定の場合)。その一方でローパスフィルター回路とアンプ、スピーカーの回路に当てはめると、ここで言う抵抗はアンプの内部抵抗+ケーブルの抵抗ですのでケーブルをどんどん太くしていくと抵抗がアンプの内部抵抗に接近しほとんど変化しなくなります。静電容量は増えていくので、この効果についてケーブルが太いほど立ち上がりが良いのではなく、最も立ち上がりの良い太さがあるということになります。
4.表皮効果
表皮効果についてはこれまで書いたとおりケーブルが太くなるほど電流の立ち上がりが悪くなる効果であって無視できない影響があると私なりに示したつもりです。
dolceさんの方は、表皮効果の定量的評価として、TADの技術者に問い合わせた結果、影響は無いとの回答得たため、そう判断したと述べています。つまり他人から見た場合はブラックボックスでしかありません。
5.コイル成分による電流の遅延
これについてはsjriさんからコメントをいただきました。
L=2,R=10のケースとL=2,R=2のケースについて検討したものであり、計算はそのとおりです。
ただし、音量をそろえて比較しますので、両者の実効電力をおおむねそろえる必要があります。
L=2,R=10をケース1、L=2,R=2をケース2とすると、ケース1の電圧を上げます。電圧がいくつになるかは音量をそろえる基準の信号に何を使うかで変わりますが、たとえば
ケース1:E=2 ケース2:E=1のようにおく必要があります。
このとき電圧をかけてからの時間tと瞬時電力の関係は
時間tの値 0.10 0.30 0.50 1.00 2.00 3.00
ケース1の瞬時電力 0.16 0.31 0.37 0.40 0.40 0.40
ケース2の瞬時電力 0.05 0.13 0.20 0.32 0.43 0.48
であり、抵抗の大きいケース1のほうが大きな電力が早くからかかります。
参考までにどちらもE=1とした場合(ボリューム位置を換えずにケーブルを交換した場合に相当)も基本的には同じで
時間tの値 0.10 0.30 0.50 1.00 2.00 3.00
ケース1の瞬時電力 0.04 0.08 0.09 0.10 0.10 0.10
ケース2の瞬時電力 0.05 0.13 0.20 0.32 0.43 0.48
というように抵抗の大きいケース1では0.5秒でほぼ立ち上がりが完了し、それ以上電力が増えないのに対し、抵抗の小さいケース2では2.0秒後でもまだ電流値がオームの法則に対し90%に達せず、だらだらと電力が増え続けます。これは「大きくて、かつ、立ち上がりの悪い電力」です。
以上により抵抗が大きいケースのほうが立ち上がりのよい電力となります。ただし、この要素についてそうなるということであって、他の要素との組み合わせでどうなるかということは別です。
6.その他の電気的特性
変動する電気的特性は他にも考えらるので、列記し検討することが必要です。
ただし、上記以外のものは非常に効果の小さいものしか思いつきいませんので、実際には影響はないとは思います。
7.機械的特性
電線を弾くと電流が発生しますので、ケーブルの振動が音に影響することは定性的には明らかです。
電線の太さが変われば機械的な物性が変動しますので、影響の検討が必要です。